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牛堀の土蔵リノベーション

約160年前に建てられた土蔵(古民家)のリノベーションです。敷地は霞ヶ浦から流れる常陸利根川に面する潮来市牛堀地区に位置します。周辺には町家や土蔵がいくつか残っています。2006年に改装した母屋に続く2期工事です。

クライアントは、倉庫としての蔵ではなく、ゲストハウスや町の寄合所として使用できる、古さを生かしながらも機能的で新しい空間を要望されました。

土間

腐食が進んでいた土台は新しいヒノキ土台に交換し、他の構造材は、水平垂直を補正しそのまま見せています。土間の仕上げは墨入りモルタル、壁は漆喰塗り、天井は既存の根太天井です。写真左手は蔵戸、右手はアイランド・キッチンでその後ろに採光窓を兼ねた食器棚です。

道路側外観

特にみすぼらしくなってしまっていた道路側外観のみ全面改修しました。破風は漆喰補修、外壁は杉板下見板張りです。

土間と床

改装前の調査により、ふたつの異なる時期に建てられた土蔵が屋根で一体化されていることが分かりました。そのためジョイント部分の壁量を増やし、土蔵には多すぎた開口部を減らし、水平垂直を修正し、強固な軸組みを構成しました。そして一方を水回りを設けたりテーブルや椅子を置いて気軽に使える土間空間とし、もう片方は置き囲炉裏の廻りで飲み会ができる少し親密な雰囲気の床空間としました。

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床空間

床空間は開口部が少なく少し親密な空間です。クライアントは、週末になると気の置けない友人たちと飲み交わしているそうです。仕上げはヒノキフローリング オスモワックス仕上げ、壁は漆喰塗りです。階段箪笥はこの改装のためにクライアントが購入したもので、実際に2階(未改装)へ行くために機能しています。

床から土間を見る

蔵戸がふたつあることからも、ふたつの異なる時期に建てられた土蔵であることがわかります。蔵戸は元々土蔵で使われていたものと、骨董店で購入したものを組み合わせています。

川柱の間の地窓

一般的には、蔵は閉鎖的な空間なので窓はほとんどありませんが、ここでは地窓を設けて裏庭を眺められるようにして、閉塞感を和らげています。地窓を横切る部材は貫でそのまま見せています。柱・梁は洗いを掛けただけでそのまま使っています。塗装はしていません。

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アイランド・キッチン

バー・カウンターのある特注のキッチンです。コンロは IH です。キッチンの後ろに採光窓を兼ねた食器棚があります。

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洗面コーナー

冷蔵庫置場の裏にひっそりとあります。洗面ボールはクライアントが笠間で購入されたものです。

トイレ

スリット窓を開け薄暗い空間に光が差し込むようにして、スリット窓の中程に花を生ける棚を設えました。蔵の雰囲気に合うように、床を敷き瓦、壁・天井を珪藻土櫛引きで仕上げています。

改装前の様子

改装直前は、物置として利用されていました。以前に裁縫教室に使われていたことがあり、多くの窓が開けられたため壁量が不足し、建物全体が傾いていました。利根川に近いこともあり、地盤が緩いのですが、その割に基礎の不等沈下はそれほど見られませんでした。よって事業は地中深く松杭もあると推察されました。しかし土台の腐食が進んでおり、このままでは長くはもたない状態で、取り壊しも検討されましたが、クライアントの強い希望でリノベーションが実現しました。

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土蔵外観。漆喰が剥がれた箇所はトタンで覆ってありました。

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蔵戸。左右に2か所あります。

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改装前の土間部分。こちらの方が新しいが、材は細い。

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改装前の床部分。最初に建てられた土蔵で、材が太い。

工事の記録(土台の入れ替え)

土台の入れ替えは、まず建物全体を少しずつ様子を見ながらジャッキアップして基礎から浮かし、建物の傾きも同時に補正します。本当に少しずつ様子を見ながら行うので、時間が掛かりますが、職人さんの一日当りの作業時間は短いです。

安定したところで、傷んだ土台を取り外し、基礎石のレベル補正や、新規の基礎打設、を行います。新規のヒノキ土台を設置し、柱脚の補修や継ぎをしてジャッキを降ろすと交換完了です。

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ジャッキアップにより、土蔵全体を持ち上げます。鳥居のような形の当て木と赤いジャッキに注目。

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ワイヤーとバックルで垂直を出し、支保工(しほこ)で保持しながら、土蔵全体の傾きを修整します。

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土台の交換が終了し、ジャッキを下ろしたところです。建物の傾き補正は、耐力壁設置まで続きます。

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土台と柱の取り合いです。柱の根元が腐っていたので継いでいます。

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埼玉県川口市の一級建築士事務所 兵藤善紀建築設計事務所