2005年6月21日
シフォンケーキ・官能篇
ふた月ほど前に大量に夏みかんシフォンケーキを焼きすぎたせいか、最近あまり焼いていなかった。ゴールデンウィーク明けに、キルギスの友人を夕食に自宅へ招いたときに1ホール焼いただけである。
「さすがに夏みかんシフォンも飽きてきたのだろうか?」 私は想いを巡らす。
「それともシフォンそのものに飽きてしまったのでは?」 私は独り苦悩する。
「もしかして人生に飽きてしまったとか?」 私は世に問いかけ、神を求める。
しかしここで崇高で形而上学的な問題は妄想に取って代わり、それは膨らんで、飛躍し、ついには官能の世界を逍遙するのだった。ではそこから閃いた妄想的官能フレーバーをご紹介しよう。
このあいだTSUTAYAの半額デーに「髪結いの亭主」(1990仏 パトリス・ルコント)という映画をレンタルして鑑賞した。簡単にストーリーを説明すると、女性理髪師の官能に子どもの頃から恋いこがれていた男アントワーヌは、理髪店の美女店主マチルドに一目惚れし、求婚して結婚し、ひたすら彼女を見つめて暮らし、彼女もそれに満足しているのだが、老いを怖れたマチルドは、ある日死を決断するに至る・・・こんな感じなのだが、ルコントの作品には相手を愛するがあまり、不幸(至福?)に落ちる、しかも外的要因に巻き込まれて仕方なくというのではなく、内的要因で自発的にそうなってしまう話が多いような気がする。
映画の最後の方で、マチルドが散髪している客の「死の匂いとは?」という問いに対し、アントワーヌが「バニラ風味のレモンだ」と答えるシーンがある。このやりとりの後、マチルドはその客が年をとって背が曲がってきたことを自分の老いに照らし合わせ、死を決断をする、という重要なシーンなのだが、私はこの「バニラ風味のレモンだ」の台詞がすっかり気に入ってしまった。バニラもレモンもどちらも大好きな思い出深い香りだが、子どもっぽい香りだなとも思っていた。しかしこれらを合わせると死の匂い?否、この映画では官能の匂いと解釈すべきであろう。マチルドは死だけを決断したわけではないのだから。そこで早速バニラ風味のレモンシフォンを焼いてみることにした。
シフォンケーキは少量の小麦粉をベーキングパウダーを使わずメレンゲだけでふんわりと焼き上げるためか、強めに香り着けをしないとフレーバーが何であるかわかりにくい。そこでバニラエッセンスは30滴、レモンは半分の皮と果汁で香り着けをすることにした。レシピはおなじみ赤堀レシピを参照。映画を意識して、女性の方はマチルドの真似して胸元や腿をちらつかせながら卵を割ったり、男性の方はアントワーヌの真似してアラブダンスを踊りながら泡立て器を振り回したりしながら調理すると気分が高揚するかも(笑)
さて、お味の方はといいますと、これだけバニラエッセンスを垂らしても微かな香りしかしない。やはりメレンゲの宇宙は広大なのか(シフォンケーキ宇宙編参照)、シフォン全体に広がるようにするには天文学的な滴数が必要かもしれない。メレンゲによって薄められた官能の匂いに、そんなはずは無いと思いながら、私は更に鼻を近づけて嗅いでみるのであった。
今日の写真 ~ソフト・ハウス その5~
今回はマカオ、タイパ島。お祭りのために作られた仮設舞台だが、使用部材は中華圏の建設現場で使われている竹とシマシマ養生シート。
カテゴリー:シフォンケーキ | コメント (9) | 投稿者:hyodo
コメント
柑橘系はトップノートで、バニラはベースのラストノート。トップノートは官能の、生と性の香り、ラストノートは官能の、死の香りなのです。
こんにちは。(^^)
>ルコントの作品には相手を愛するがあまり、不幸(至福?)に落ちる、しかも外的要因に巻き込まれて仕方なくというのではなく、内的要因で自発的にそうなってしまう
ほんとにそうですね。
2005年6月22日 @ 12:50 PM
(ぴ)さん、こんにちは!
バニラオイルというのもあるのですね。
バニラシュガー!これも良さそう。探してみます。
(ぴ)さんもシフォン焼きますよね。バナナの次は何のフレーバーですか?
みみさま、さすがお詳しい!勉強になりました。
性とは爽やかなもの、死とは甘いものだったのですね。
ルコントは・・・こんど「仕立屋の恋」を観てみます。
2005年6月22日 @ 6:22 PM
Kara
hyodoさん、こんばんは。
バニラの香りが引き立つようにするなら、バニラビーンズを使うのがおすすめです。
しごきだした後の種と鞘をサラダオイルの中に入れて香りを移し、生地に加える時に鞘を取り除きます。使う量は、20㎝型で4分の1本。
種を取った後の鞘は、グラニュー糖の容器に一緒に入れておくとバニラシュガーが出来るのですが、オイルに浸かった後の鞘ではどうなんだろう?
私も焼き菓子は、手軽に使えるバニラオイルを使うことがほとんどで、たまに贅沢風味を味わいたい時に使ったりしています。
ちなみに、先日、バニラとレモンのパウンドを焼きました。レモンとバニラは、合いますね~。食べながら、この懐かしさは何だろう?と、考えていたらば、どうやら「レモンケーキ」の味でした。
2005年6月22日 @ 9:00 PM
sakura
ヴァニラオイルは焼き菓子用。すでに買い換えてる。
しかし!忙しくて菓子修行がとどこおりがち。菓子パーチーしなくちゃ。
わたし、ソフトハウスすきかも…。明るさがね。軽さもかも。
2005年6月24日 @ 2:07 AM
karaさん、バニラビーンズ試してみたいと思います。
使用量までご教授いただき、ありがとうございます。
また、教えてください。
レモンケーキはバターの香りもしますし、
シフォンは卵と小麦粉の香りを感じますので、
性と死の香りをより純粋に楽しむなら、
レモネードにバニラエッセンスを垂らすのはどうですかね(笑)
sakuraさん、こんにちは!
バニラオイルは焼き菓子用なんだ、勉強になりました。
お菓子パーティーやりましょうね。
おっしゃるようにソフトハウスは軽いし明るい。しかし生活は出来ない。
この表層的な軽さは、喩えて言うならアバンチュール。
ただいまクンデラの「存在の耐えられない軽さ」を読んでいます(笑)
2005年6月24日 @ 11:34 AM
Kara
部屋の中が象だらけで、部屋干しにしている洗濯物が乾かなくて、暑苦しい・・・。
そんな夢で目が覚めてしまう今日この頃、レモンとバニラビーンズを交互に丸かじりすると、よりいっそう死のかほりを感じることが出来るかも知れませんね?
舌と胃が荒れそうなので、私はやりませんが。
2005年6月24日 @ 10:47 PM
KARAさん、なかなか気の利いたご冗談を・・・(笑)
この記事で色々とみなさんに教えていただいたので、
「官能のシフォンケーキ」を完成させたいと思います。
2005年6月27日 @ 9:30 AM
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(ぴ)
バニラオイルのほうが香りが出るかもしれませんね。
お砂糖も贅沢にバニラシュガーにしてみてはどうでしょう?
ああ、私も焼きたくなってきちゃったー!!!
2005年6月21日 @ 10:06 AM