2005年1月28日
「HAVE WE MET? -見知らぬ君へ」を観て
赤坂の国際交流基金フォーラムで開かれているアジアの若いキュレイターの共同企画による展覧会である(詳細はこちら)。NHK教育テレビの番組「新日曜美術館」で昨年取り上げられていたある作品が非常に印象深く忘れられなかったので、時間を見つけて行って来た。
小林洋子 「時積層」
テレビで忘れられない印象を残したこの作品は、正方形の薄い紙が、紙とほぼ同じ断面積の垂直に立ててあるアクリルチューブの中をゆっくりと落ちるというシンプルなものだ。
作品の画像を見つけたので、(こちら)も見て頂きたい。
紙の大きさは約30センチ角で、普通のコピー用紙のようである。アクリルチューブの長さは4~5メートル位で、透明な柱のようである。いちばん上に紙の大きさの穴の開いた板が載せてあり、インクジェットプリンタが設置されている。紙は一定時間の間隔でプリンタから穴に送り出され、チューブの中をゆっくりゆっくりと落ちる。
まず驚いたのは、紙は水平を保ちながら落ちるという事実。紙は縦になったり、やたらとひらひらしたりして落ちるということはないのだ。また、同じ紙のはずなのに紙によって落ちるスピードは異なり、速かったり遅かったりする。しかも、スピードは落ちていく間中常に変化する。その上、前後にある紙にも影響されているようで、紙と紙の間隔も常に変化する。
とてもシンプルな仕組みの中で、微妙で複雑な動きをする紙。とにかくずっと見ていても飽きない。例えるなら、暖炉の火を眺めているような感じといえばわかっていただけるだろうか?自宅に欲しい!しかもかなり!
名和晃平 「PixCell」シリーズ
鑑賞者は床・壁が真っ白で天井は照明という、影の出来ない部屋の中に入り、アクリルケースに入った剥製を観る。
この部屋は例えるなら、映画「マトリックス」の中で全周囲が真っ白の仮想空間に銃器がずらっと出てくる場面があるが、あのような空間である。
アクリルケースにはプリズムシールが仕込まれており、中の剥製はある特定の2方向からしか見えず、像は2重に見えたりする。本当にケースの中に剥製は入っているのかどうか疑わしい錯覚に捕らわれる。
仮想空間に置かれた仮想物体。でも現実。新しい体験だった。
ウィット・ピムカンチャナポン (タイ) 「Still Animations」
振動する写真とでも言ったらいいであろうか?この作用により、写真より格段にリアリティーが増幅されている。これを見た瞬間、中村良夫氏の名著「風景学入門」(中公新書)の中で、目の動きと視覚について書かれている箇所を思い出した。引用すると長いので、簡単に説明する(38P、8行目から14行目)。
何かに注視しているとき目は「眼振」という不随意運動をしている。又、網膜に映る像は不断の更新を必要とする。これらにより、完全に静止している視覚像は得られない。
簡単に言うと、こんな感じだが、新鮮な映像体験であった。
さわひらき 「Spotter」「Dwelling」
アパートの部屋の中をなぜか旅客機が飛び交うというビデオ作品。キッチンカウンターや浴槽から発着する飛行機がドアの隙間を掻い潜り、照明器具のぶら下がる天井近くを飛ぶ機体は飛行機雲まで発生させる。とにかくかわいくおかしい。おもちゃのチャチャチャの航空機マニア判。それでいて何か機智に富んでいる。
他にも、シギット・ピウス(インドネシア)
ポーンタウィーサック・リムサクン(タイ)
キラン・スッピア(インド)
クリシナラージ・チョナトゥ(インド)
が楽しめた。
非常にレベルの高い現代美術展なので、オススメです。
カテゴリー:アート | コメント (8) | 投稿者:hyodo
コメント
はじめまして。はろるど・わーどと申します。
トラックバックありがとうございました。
「時積層」、自宅にあったら楽しそうですね。
紙が2枚まとめて落ちてきたり、
立て続けに速いスピードで落ちてきたり…。
偶然の為す様が面白くて、本当に飽きません。
新日曜美術館でもとり上げられていたのですか。
知りませんでした…。
来年もまた、この手の企画をして欲しいです。
2005年1月28日 @ 9:31 PM
国際交流基金フォーラム 「Have We Met?」 1/22
国際交流基金フォーラム(港区)
「Have We Met?-見知らぬ君へ」
2004/12/11?2005/1/30
こんにちは。
久しぶりに国際交流基金フ…
2005年1月28日 @ 9:32 PM
taqujiさん、
国際交流基金フォーラムはね、
周辺を散歩すると面白いですよ。
アラブといえばエルサムニー!
朝日新聞の書評に出ていました。
読みました?「恋するアラブ」
札幌といえばモエレ沼公園行きたいよ。行った?
なんか取り留めないレスですみません。
はろるど・わーどさん、
こちらこそ、ありがとうございます。
時々遊びに伺っています。
ブログの世界も以外に狭いので、
アート関連を調べていると、
必ず、はろるど・わーどさんに
行き着くんですよね。
2005年1月30日 @ 10:06 PM
イサム・ノグチのモエレ沼公園ですね、春と秋の2回行きました。いま雪の積もった今行くとどうなんだろう…。
訪れるとすれば初夏6月頃がいいかもしれません。この頃が北海道のいちばんいい時期かと思います。花と緑がいっせいに現れるときですから。
エルサムニー、エルサムニーと・ついに記事をひとつ書いちゃってますね!フフフ
2005年2月2日 @ 11:34 PM
6月はいいらしいね。北ヨーロッパもこの時期はとてもいいし。6月の気候は北ヨーロッパと北海道は似てるかも。北海道は梅雨が無いんだっけ?
エルサムニーネタではお世話になりました。
あの人ってほとんど日本人に見えませんか?
2005年2月3日 @ 8:48 AM
北海道に梅雨はない、んだと思います。
爽やか系の夏にフェードインな感じですね。
月別平均気温でみると、軽井沢辺りとほぼ同じになります。
エルサムニーさんはたしかに日本人にしか見えませんね。
2005年2月6日 @ 10:06 AM
北海道は気候的には過ごしやすいかもしれませんね。
東京の夏を過ごすことを考えると、寒いほうがいいかもしれません。
エルサムニー家には兄、姉、妹がいるらしいのですが、この方たちは、どちらに近いのかな?
2005年2月7日 @ 9:07 AM
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taquji
あーいいですねー。
「キュレイター」という単語にピンとこないくらいなので知識はあまりないですが、現代美術は好きです。国際交流基金フォーラムってだけにほかにもいろいろおもしろそうなイベントがあるみたいですね~今までも・これからも(アラブ映画祭とか!)。東京にいたらいろいろ行ける(た)のに…今までちっとも知りませんでした。
どこでなにをやってるという情報はどこで得られるんでしょう?札幌でもなにかやってないかな…。
2005年1月28日 @ 12:49 PM